母のカラクリ時計
母は、大型台風が発生して、当地に向けて北上している時に亡くなった。
3個の台風のうち一つは、前代未聞のUターンをして、再び当地を目がけて北上してきた。
「きっと、ばあちゃんが呼んだんだ」と、家族で話していた。
その台風に、母の名前をつけて呼びたい。
渦の中に巻き込んで、洪水にして、全てを吹き飛ばしてしまう辺り、母の人生を象徴している。
その母が亡くなって8日が過ぎたけれど、実家にいても気配がない。
意外にこの世への未練は、あまりないかも。。
先の事しか見ていないかも。
私は母の形見に、オルゴール付きのカラクリ時計をもらう事にした。
これは、父が亡くなった後一人暮らしになったとき、話し相手がいない、、と言って買ったものだ。
このカラクリ時計、オルゴールの音を聞くと実家が蘇ってくる。
振り回された思い出も蘇るが、それもいいか。。
兄が、「ばあちゃん、記念にもらってもらえて良かったね。」と言った。
熱中症で一人で倒れて以来、たぐいまれな生命力で生き延びたのは、子どもたちを試していたのかもしれない。
厳しい条件の中でも相手を責めないでいられるか。。相手に感謝できるか。。
母は倒れる前、子どもたちにお中元を送っていた。
人に物をあげる事も好きだった。
倒れる前後、次々とお礼の電話がかかってきていた。
その電話に出ないので不審に思って訪ねたら、倒れているのを発見されたのだった。
その時母は、お花畑で眠っていたらしい。。
この時、お中元を贈らなければ、母は意識が戻らなかったし、私たちは試されもしなかった。